私はこうして翻訳者になった

どうやったら翻訳者になれるのか

翻訳者にどうやってなるのか? 何か一つの正しい方法があるわけではありません。自ら翻訳者を名乗り、仕事を請けて、報酬がきちんと貰えれば、それで翻訳者だといえます。他の多くの専門職とちがい、日本国内において翻訳者には公的な資格がありません。能力を検定し、認定する組織もあるようですが、その認定の有無がどれほど有利に働くでしょうか。ごく限られたケースにだけ当てはまるのが、もうずっと長い間の実情ではないでしょうか。
ですから、まずは自分が翻訳者であると自信をもって名乗れなければ、翻訳者にはなれません。そのためには、自分が翻訳してみた文書の品質が世の中一般に出回っている翻訳と遜色ない程度であると感じられれば十分です。そして、それはなかなか難しいものです。
翻訳者志望者のトライアルを見る機会がたまにあるのですが、「本当にこれで自信をもってクライアントに見せることができるのだろうか」と感じさせられるような訳文に出会うことが珍しくありません。もしもその翻訳者が自信もっているのだとしたら、それはある意味絶望的です。読んで意味の通らない文章を書いたことに自分で気がつかないような人は、翻訳者にはなれません。たいていの場合はそうではなく、「自信はないけれど、仕事がほしい」のでしょう。そして、その気持ちはわかります。
だれだって、最初から完璧な仕事はできません。いいえ、「完璧」な仕事は、だれにもできないといってもいいでしょう。すべての翻訳者が、仕事をしながら学んでいくものです。私も1つの案件を終えるたびに、新たなことを学んでいます。言葉をかえれば、10年前、20年前の仕事は、ずいぶんといい加減なものだったなあと振り返らざるを得ません。
ですから、「ここまでできたら翻訳者として合格」みたいなラインはありません。翻訳者として仕事を任せてもらえるようになったときが、翻訳者としてのスタートです。そして、そのスタートは、常にそういう機会を求め続けることでしか得られません。まずは自分の能力を高めること。そして、翻訳者が求められている場を探し、そこで自分の能力を試してみる──、根気よくそれを続けることが、翻訳者になる最も近道であるのかもしれません。


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