この記事は、2007-05-29 3:23:27 pmにポストしたものの再掲です。 美しい英語は、重複を嫌います。よほど正確性を期する場合でもなければ1文のなかに同じ単語が繰り返されることはありません。代名詞で言い替えができる場合は代名詞(おもにit)で言い替えられますし、それができない場合にはほかの単語による言い替えが工夫されます。 複数の単語で1つの単語を修飾することも、重複を避けるために行われる工夫のひとつです。英文を音読してみれば、これが文章を美しく引き締めていることがよくわかります。ところが、翻訳をする際には、これがけっこうやっかいな問題を生み出します。
原文のhumiliating、frightening、painfulは、それぞれsituationを修飾しています。これは、この3つの形容がすべて同じsituationの性質を示していると考えるよりも、むしろ、それぞれ別個のそのような状況があったと考えるべきでしょう。つまり、humiliating situations, frightening situations, and painful situationsと、3種類の状況を並列しているのがもともとの意図です。しかし、英語は繰り返しを嫌います。situationsが繰り返されるのを嫌い、それをまとめてしまう形で、原文ができあがります。ですから、これをそのまま訳して「恥ずかしく恐ろしく苦痛に満ちた状況」としてしまったのでは、「それっていったいどういうシチュエーションなの?」と、頭の中に疑問符が浮かんでしまいます。 そこで、こういった場合には、もとの意味に戻って、「状況」を3度繰り返してやる工夫が生きてくるわけです。
原文のcan(〜ことができる)は、3つの動詞see、interpret、offerにかかります。ですから、見ることも解釈することも提供することもできるのです。しかし、「〜ことができる」を原文に引っ張られて1つだけ使うと、「見」や「解釈し」に対して「〜ことができる」が関係することが見えなくなってしまいます。そこで、「〜ことができ」や「〜すること」を適宜重複させることによって、原文の意味をより正確に伝えようとするわけです。
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