2つの単語を1つに訳す(訳語の選択)

この記事は、2007-05-31 4:32:24 pmにポストしたものの再掲です。

辞書を引くと、「暴行」という単語の訳として、assaultやbatteryなどが載っています。ところが、この2つの単語はしばしば「assault and battery」と、2つ並べて登場します。これを「暴行と暴行」と訳してしまうと、奇妙な翻訳ができあがってしまいます。なんらかの工夫がぜひにも必要です。

詳しい解説によると、assaultは実際の暴力行為だけでなく暴力を行使しようという意図や身振りなどを通じて被害者に身の危険を感じさせるような行為であり、batteryは意図はともかく実際の物理的な接触によって身体に被害を生じさせる行為です。assaultは「脅し」に近く、batteryは「傷害」に近い意味をもっています。だとしたら、「assault and battery」は「脅しと傷害」と訳すべきでしょうか。否です。

これは単純に、「暴行」と訳せばいいのです。英語の単語ひとつに必ず日本語の単語ひとつを対応させねばならないという決まりはありません。「assault and battery」の2つの単語で日本語の「暴行」1語にあたる概念を表現しているのだから、その1つの単語で十分な翻訳になる場合がほとんどなのです(もちろん例外もありますが)。

似たような例に、「power and authority」や「mentally or psychologically」、「love and affection」などがあるでしょう。powerを「権限」と訳してしまったら、authorityは「権威」だろうか、いや、法律用語に「権限と権威」ではおかしい、だったら「権力と権限」か?などと悩む必要はありません。power and authorityの2語で「権限」と訳せばいいのです。「心理的もしくは精神的」と訳し分けた方がいい文脈もありますが、たいていはどちらか一方だけで間に合います。もしも「愛情」と1語に訳して後ろめたい気がするのであれば、loveを「愛」、affectionを「情」と訳したのだと言い訳すればいいでしょう。

英文の2語を1語に訳すのをためらってはなりません。意味が正確に伝わるのならば、単語ひとつひとつの対応などどうでもいいのです。むしろ、ひとつひとつの単語にひきずられて、全体の意味を見失うことの方が問題です。

そう考えれば1つの英単語を2つあるいは3つの日本語で訳す場合もあり得るのに気がつくでしょう。cupsは「カップ」と訳すのが普通ですが場合によっては「コップと湯のみ」のほうが正確ですし、teenagerはそのまま「ティーンエイジャー」が適切な場合のほかに「中学・高校生」とする方がより原文の意図に沿った場合もあります。要は、原文の単語が表す概念が等しくなるように訳語を選択するのがもっとも正確であるといえるのです。


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