この記事は、2009-06-25
1:08:28 pmにポストしたものの再掲です。
これはある意味、商売上のノウハウかもしれないのですが、ノウハウというにはあまりに常識的なことなので、公開してしまっても差し支えないでしょう。というか、多くの人は「何をいまさら…」と思うはず。けれど、知らない人は知らないようですし、そういう人が案外とこの方法を使う必要があったりするので、書いておきましょう。
私はこの方法を専ら和文英訳に使っています。事務所の方針で和文英訳は基本的には英語ネイティブな翻訳者が行うのですが、ときには専門分野の関係やスケジュールの関係から日本語ネイティブである私が担当する場合もあります(翻訳者の粒が揃ってきた最近ではめったにありませんが)。
そんな場合、頼りにするのは用例です。自分が書いた英文が本当に通じるかどうかは、用例を調べればわかります。そしてGoogleは、膨大な用例を提供してくれます。
たとえば、「両者協議すること」という契約文の英文として「Each
party shall confer with each other about
it.」と翻訳したとします。けれど自信がありません。動詞conferは前置詞withを必要とするのでしょうか。「〜について」は、aboutが適切でしょうか。ひょっとしたらonの方がいいかもしれません。
Googleは、” ”で括ることでフレーズを検索できます。ですから、このフレーズをそのまま” ”で括って”Each
party shall confer with each other about
it”を検索します。一致はありませんが、挫けることはありません。itを抜いて”Each
party shall confer with each other
about”なら、8件のヒットがあります。実際に用いられている表現だということがわかります。
しかし、”Each
party shall confer with each other on”
で検索してやると、やはり同数のヒットがあります。つまり、onでもaboutでも意味は通じるのです。では、どちらがより適切なのかを調べるため、”confer
on”と”confer
about”で検索してみます。前者が圧倒的にヒット数が多いようです。つまり、用例としてはconferがonをとる方が多くなります。どうやらonに分がありそうです。
次に、”confer
with each other”と”confer
each
other”を比較します。withが必要かどうかを確認するのです。すると、前者が6万件以上あるのに、後者は26件です。withがない用例がないわけではないけれど、これはwithを必要とするとみてまずまちがいないでしょう。
多数決だけで決めればEach
party shall confer with each other on
it.がよさそうですが、今度は各々の用例を詳しくみてやります。そうすると、やっぱり契約書に関してはonよりもaboutの方がよさそうだとわかります。onは日付その他を示す際にも使われるので、雑音となっていたようです。そこで、自信をもってこの一文は、Each
party shall confer with each other about
it.と決定します。このように、Googleのフレーズ検索を利用すると、実際に用いられている正確な翻訳を比較的簡単に行うことができます。この際注意すべき点は、
- 桁違いに多い用例は、多い方を採用する。ただし、検索語にノイズが入っていないこと。
主なノイズには、次のようなものがある。 - 書名や多数引用される文献等、出典が同じものがウェブ上で重複しているもの
- 無関係な表現でたまたま一致しているもの。
- 文をまたいでいる単語列。Googleはピリオド、カマを無視します。
- ネイティブ以外が作成した英文。「用例があった」と喜んだら、日本人が書いた不自然な英語論文だったということがたまにあります。
- SEO対策のために自動生成される単語列。こういう検索スパムが存在します。
- ヒット数が100件以下の場合には、特に注意して実際の用例が自分の目的と整合するかどうかを調べる。
- ヒット数に差が出ないときは、用例の中身を比較して、検索フレーズを変更する。
といったところです。
また、もっと翻訳に苦労するもの、例えば定型的な専門文書などに関しては、別の方法があります。例えば、水質検査の分析証明書を翻訳する必要があるとします。分析証明書はおそらくCertificate
of Analysisで大丈夫でしょう。しかし、それ以降の専門タームが不安です。たとえば、「検査日」は、date
of analysisでしょうか、testing
dateでしょうか。
こういうときは、専門語の中のまず確実に間違いのない訳語を一つ探します。たとえば、大腸菌数はcoliform
countで間違いないでしょう。そこで、”Certificate
of Analysis”と”coliform
count”を検索語として検索します。すると、英文の分析証明書が多数出てくるでしょう。こういった既存の証明書をテンプレートとして適宜利用すればいいのです。
この方法を利用すると、ときにはほとんどそのまま流用できるフォームに当たることもありますし、翻訳ターゲットの文献そのものにヒットすることもあります。翻訳語の検索という意味だけでなく、その分野の基礎知識の習得にもなりますので、この手はよく使います。
英文和訳の場合にも、ときには同様の手段が有効です。これは専門語の定訳、先行訳を探るときに使います。定訳の不明な英単語と、定訳のはっきりしている同じ分野の日本語をペアで検索します。すると、不明な英単語の定訳が得られることが多いものです。こうやって見つかった訳語は、さらにそれ単独で有効性を確認します。
このようにGoogleを使えば、ネイティブでなくてもかなりネイティブに近い品質の翻訳ができます。短い案件でわざわざ翻訳者を依頼するまでもないけれど自信が今ひとつというような場合に、ぜひ試してください。もちろん、こんな手間をかけるよりも、ネイティブの翻訳者に任せる方が早く、品質の高い翻訳が得られることが多いものです。そんな必要があるときは、ぜひd-lightsまでご用命ください。