効果的なプレゼンテーション用スライドの作り方

この記事は、2009-06-24 10:34:25 amにポストしたものの再掲です。

ビジネス企画の提案や学会発表にプレゼンテーション用スライドをパソコンで作成するのはもう常識になりました。もっとも多用されるのはMicrosoftPowerPointですが、スライドはさまざまなソフトで作成が可能です。それぞれのソフトを利用したスライドの作成方法は、それぞれに極意が紹介されています。さまざまな効果的なテクニックがありますが、ここではそういう側面には触れません。翻訳業務の中で気がついた「効果的なプレゼンスライド」に関するヒントです。

まず、プレゼンテーション用スライドとは何かということをはっきり認識しておく必要があります。この認識が誤っているため、効果をあげないスライドが多数つくられます。どちらかといえばそんな誤ったスライドが主流であるため、「パワーポイントってそういうものだ」という思い込みが生まれ、それがさらに効果をあげないスライドを量産するという情けないサイクルになってしまっています。ときには指導教官や上司がそういう効果をあげないスライドをつくるよう指導する場合もあるでしょう。漠然と「プレゼン資料はこういうものだ」と思い込んでいると、えてしてそうなります。

プレゼンテーション用のスライドは、口頭での発表を視覚的に支援するものです。プレゼンテーションは、基本的にはプレゼンターの言葉と表情や身振りで、情報やメッセージを聴衆に伝える作業です。スライドは、この行為を補足します。口頭で表現しにくい数値はグラフや図表に表すと効果的です。複雑な装置や風景は説明するよりも写真を見せた方が一目瞭然、抽象的な概念をビジュアル化することもいいでしょう。ときには息抜きの写真やイラストを入れておいてもかまいません。

しかし、忘れてならないのは、プレゼンターの発表という行為が主体であり、スライドは視覚的にそれを構成する一部だという関係です。これを理解するだけで、多くの「パワーポイント」が誤った概念でつくられていることがすぐにわかります。

もっとも主流を占めるプレゼンテーション用スライドは、発表の内容を全てスライド内に盛り込んだものです。学会発表ではこれが8割以上を占めるでしょう。発表者は、細かい文字で書かれたスライド内のテキストを読み上げるだけ。これを棒読みでやられた日には目も当てられません。

プレゼン用スライドは発表原稿ではありません。ところが多くの場合、これが混同されています。さすがに一言一句全てをスライド内に記述するのが主流とは言いませんが(それでも無視できないほどの多数です)、発表に盛り込まれた情報をほぼ全てスライドに網羅するのが当然とされています。ですから、話す内容と目で見る内容が完全に一致してしまっています。これはまずいのです。

視覚情報と聴覚情報は、互いに補足し合います。同じものでは補足になりません。単なる重複です。そして、重複から生まれるのは注意力の散漫です。目で情報を追う人にとっては聞こえる言葉はノイズになってしまいますし、耳を主体とする人にはスライドに盛り込まれたテキストが正常な理解を妨げます。脳内生理上の理由はわかりませんが、視覚情報と聴覚情報はちがっていてこそ相補的になり得ます。そして同じ情報の重複は逆効果になります。

なぜこのような悪弊が生まれたのかと考えると、それは配布資料にプレゼンスライドを流用するという習慣が定着したからではないかと思います。学会などでは多数の発表が同時進行で行われるので、聴講はできないけれど資料だけをもらいたいというケースがよくあります。そういう読者に対してスライドを縮刷した資料を読めば発表内容が完全に理解できるよう配慮するのは、ある意味、親切かもしれません。聴講していても寝ていた聴衆に対しても…

けれど、「聞かせる発表」をして、ほかをキャンセルしてでも出席させるようにするほうが、発表中に眠らせないようにする方が、よっぽど大切ではないでしょうか。そして、「完全版」の配布資料をつくるには、多くのソフトに脚注機能が存在します。これを有効に使えばいいだけの話。ソフトとハサミは使いようです。

基本に立ち返れば、簡単なことです。効果的なプレゼンテーション用スライドには、できるだけ文章を入れないことです。文章で説明しなければならないことは喋る方が効果的だからです。文字情報は、聴衆をトピックスの間で迷わせないようにうまくナビゲートしていくためのタイトル、煩雑で聞き取りにくい用語(特に同音異義語や専門語、外国語など)、そしてポイントをはっきりさせるための問いかけや結論程度までです。説明を加えてはなりませんし、項目の箇条書きもできれば避けるべきです。たとえば「新製品の特徴が7つあります」という発表では、7つの特徴を箇条書きにしたくなります。そうではなく、特徴は口頭で説明し、聴衆にそれをメモさせるぐらいでなければなりません。メモもとらない聴衆は、どうせ帰って資料を読み返すようなこともしないのですし。

そして、スライドの内容は、口頭で説明しにくい図表や画像をメインにします。ときには、口頭では特に詳細を述べないデータシートを入れておくのも有効です。これは口頭での大雑把な発表のエビデンスとして聴衆の理解を補足します(ついでながら、口頭ではあまり詳細な数値分析はやらないことです。音声情報としてそれを把握できる人はごくわずかでしょう。そういう必要があれば、結論だけ述べ、「詳細はスライドをご覧ください」とやるべきです)。ときには口頭発表と一見して無関係な画像を利用することも重要です。そうすることで関連性を聴衆に考えさせることができれば成功。人は見聞きしたことよりも自分で考えたことの方をよりよく覚えているものだからです。

翻訳業務を請け負う立場からすれば、文字情報が多いスライドほどお金になるし、タイトルだけよりも発表内容が文章として入っている方が理解しやすい分だけ作業効率も上がります。しかし、翻訳者が喜ぶスライドが、必ずしも効果的なわけではありません。むしろ、音声情報がないために翻訳者が理解できず困ってしまうようなスライドの方が、効果をあげる場合が少なくありません。

そして、翻訳の本来の目的、「情報を正確に伝える」ということから考えた場合、いくらそれがお金になっても、効果をあげない成果物を納品することが正しいのかどうか、考え込まざるを得ません。そのため、翻訳作業そのものには本来無関係なこの記事をあえて書かせていただきました。

d-lightsでは、プレゼン資料の翻訳だけでなく、英語でのプレゼンテーション資料作成支援も承っております。ご希望があれば、ぜひご一報いただければと思います。


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