あいさつは、なかなか翻訳できません。

この記事は、2007-07-05 11:12:44 pmにポストしたものの再掲です。

このサイトのアクセス解析を調べていたら、「英文(または英訳、英語など) あいさつ(またはごあいさつ)」といった組み合わせの検索で訪問していただいている方がぽつぽつと見られるようです。これは、たまたまこのサイトのトップページのタイトルである「ごあいさつ」がヒットしてしまうせいなのですが、ちょっと申し訳ないことです。というのも、そういった検索をかけておられる方が、まさかこういったサイトの能書きを読みたくて検索しているとは思えないからです。

「英文 あいさつ」でgoogleを検索するような人は、おそらく英語で「あいさつ」をどう書けばいいのか悩んで調べておられるのだろうと思います。このサイトには、いまだに「英語での挨拶文の書き方」みたいな記事はありませんから、大変申し訳ない誤ヒットです。

実際、日本語のビジネスレターを翻訳しているときに困るのはこの挨拶文です。「貴下益々御清栄のことと存じ上げます」みたいな挨拶文は、英語にはそぐいません。無理に翻訳して訳せなくはないのですが(例えば英辞郎を検索すると、こういった挨拶文の訳文例がいくつか出てきます)、実際の英文レターでそんなフレーズを使うかといえば、まず使わないといっていいでしょう。

英文レターを書こうという人には「挨拶文は省略してください」とアドバイスするのですが、困るのは、日本語で書いたレターを英語に翻訳するように依頼される場合です。たいていは、クライアントに相談して了解をもらい、冒頭の挨拶文を省略したり、思い切ってあいさつ的な部分を当たり障りのない場所に移動したりという処理をすることになります。このあたり、どの程度の信頼関係がクライアントとの間にあるかによって処理の内容も変わってきますから一概にはいえませんが、ともかくも英語で交渉するための通訳といった意味合いで翻訳を依頼してくるクライアントには、だいたいそんな対応でうまくいくようです。

しかし、困ってしまうのが、こういった省略や変更の許されない場合です。具体的にそんなケースをあげるなら、裁判の証拠として提出された日本語のレターを外国裁判のために翻訳するよう依頼されたときがこれにあてはまります。裁判用の翻訳というのは、基本的に原文に忠実でなければなりません。できるだけ逐語的に忠実に訳しながら、なおかつ、読みやすく、説得力のあるものでなければなりません。注文が多いようですが、意味不明の文章が証拠として提出されても、裁判には何の効果もありません。裁判の流れを変えるためには事情を自ずと雄弁に物語るような翻訳でなければなりませんし、その事情が原文に書かれたそのままに正確でなければなりません。まあ神業に近いようなことで、現実には十分に実現するのは無理なことです。けれど、それに近い効果を得ようと、翻訳者は苦心するものです。

そして、そんな証拠の中に日本語レターが含まれ、それが「貴社益々御清栄のことと存じ上げます」みたいな文章で始まっていたら、あるいは「穀雨の候」などと時候の挨拶が入っていたら、頭を抱えてしまいます。英文では、レターの冒頭はもっとも重要な部分です。ここにいきなり本題と無関係なことが入っていたら、とても説得力のある証拠には見えないでしょう。けれど、それが日本語の原文にある以上、それを訳さなければ無効な証拠になってしまうのです。

最終的にどう対処すべきかは、ケースバイケースでしょう。以前私が遭遇したケースでどう対処したのかは、もう忘れてしまいました。ただ、翻訳というものの難しさを感じさせられたことだけは、記憶に残っています。


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