秘密保持は翻訳者の基本では?

この記事は、2007-05-27 8:33:26 pmにポストしたものの再掲です。

先日、用語の検索をしていて、ある翻訳者のサイトに行き当たった。なぜヒットしたかというとちょっと特殊な用語の用例を調べていたのだが、たまたまその用語がそのサイトに掲載されていたわけだ。このサイトというのはブログであり、ブログのエントリー内にその英文が記載されていた。それを参考にさせていただいた上でいうのもちょっとなんなのだが、このブログにはかなり驚かされた。というのは、このブログの著者である翻訳者、毎日の仕事で翻訳した訳文を(全部かどうかは知らないが)そのままブログにアップしているようだからである。

誹謗するようにとられてもいけないのであえてサイト名やアドレスは記載しないが、これはひどいと思う。たしかに、自分が翻訳した実績をサイトに載せることは、「これだけしっかり仕事をしていますよ」というアピールにもなるだろうし、仕事をし続けている限り毎日エントリーが発生する上に関連分野の語句も大量にアップされるわけだから、SEOとしても優れている。ほんのひと手間かけるだけで宣伝効果は抜群ということになるわけだが、肝心のクライアントとの関係を忘れている。

翻訳者は(特に1文字あたりや1ページあたりで雇われる実務翻訳者は)、自分の仕事は自分のものではない。仕事をしたという実績は自分のものだし、仕事から得られる数多くの貴重な学びも自分のものとして構わない。しかし、翻訳原稿と翻訳成果は、断じて自分のものではない。これはクライアントのものであり、クライアントの許可なしに公表することはおろか、契約で認められた期間と方法以上には複製も保存もしてはならないものである。これは当然のようにまともな翻訳エージェントの契約には全て記載されているし、フリーランスの翻訳者であっても同様の契約をしなければ大きな仕事はとってこれないものだ。個人的なコネで正式な契約もなしに仕事をする翻訳者の場合にはそんな契約は存在しないかもしれないが、少なくとも世間の常識は翻訳者がそういう契約概念をもっているのが当り前だと思っている。

だから、こんなふうに日々の仕事をアップすることは、明らかなクライアントとの契約違反になる。見るひとが見ればそういうことははっきりわかるのだから、いくらサイトへのアクセスが増えても、この翻訳者はまともなクライアントに巡りあえないだろう。もっとも、世の中まともなクライアントばかりではないのだけれど。

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