正しい翻訳

この記事は、2010/04/08にポストしたものの再掲です。

間違った翻訳は、確かにあります。どう考えても原文の意味を誤って解釈している翻訳──つまり「誤訳」です。けっこう手慣れた翻訳者でもうっかり誤訳をすることはありますから、そういう意味で、最終チェックは欠かせません。

その一方、「誤訳」の反対の概念「正しい翻訳」というのは、実は存在しないのではないかと思います。学校のテストの答えのように唯一の正解があって、それ以外はペケというのは、翻訳には当てはまりません。どこまでいっても正解がないのが翻訳です。「正しい翻訳」ではなく、「適切な翻訳」があるばかりです。そして、何が適切なのかは、その翻訳文の用いられる用途によって変わります。文脈によって適切さが変わるのが、翻訳のおもしろいところであり、厄介なところです。

そして文脈とは、その翻訳が何に用いられるのかということです。目的がはっきりしなければ、適切な翻訳はできません。もちろん、原文の文章を読めば、それがどのような目的なのかはある程度想像がつきます。ですから、あまりに明らかな場合は、あえて翻訳の目的を尋ねないこともあります。けれど、基本的に、翻訳事務所はクライアントの目的を把握すべきですし、曖昧な場合は確認をとるのが普通です。そこまで踏み込まなければ、「適切な翻訳」はできません。そして、「不適切な翻訳」は、誤訳と同じようにたちがわるいものです。なぜなら、それは「使えない翻訳」で、クライアントに余分な出費と時間の無駄、ときにはチャンスの喪失をもたらすものだからです。

とはいいながら、「適切な翻訳」も、また難しいものですね。何年この商売をやっていても。


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